リトミックのメリットや効果を紹介!何歳から始めるのがいい?
今小さいお子さんをもつママに人気のリトミック。
人気があるには理由があり、その理由はリトミックの効果にあると筆者は考えています。
しかし、「リトミック」という単語は聞いたことがある人がほとんどである一方で、リトミックとは何か、その効果は何か、ということは詳しくは知られていません。
筆者は周囲に「いまリトミックを勉強しているんだ」という話をすると、
「リトミックって何を教えるの?」「ピアノとか歌を練習しているの?」と聞かれることが多いです。
おそらく、
「リトミック=子どもが音楽に合わせて楽しく踊るお遊戯」という漠然とした認識をもつ方がほとんどであるためではないかと思います。
「リトミックとは何か」と言われて答えることができるでしょうか。
それが子ども教育の1つであることを知れば、リトミックの魅力に驚かれるはずです。
リトミックとは何か
スイスの作曲家・音楽教育家のエミール・ジャック=ダルクローズが創案した、音楽教育法です。
ダルクローズは音楽の「演奏技術」に偏った教授方法を刷新し、音楽を身体で捉えて全身全霊で聴き表現する、という新しい教育法を考えたとされています。
「音楽の能力がある」というと、「ピアノ技術が上手」とか「歌声が素晴らしい」とか、技術の熟練度の方に捉えてしまいがちですが、この能力を伸ばすためには、まだまだ身体的にも学習能力的にも未熟な子どもにとって、耐えがたい苦痛と我慢をもって練習に練習を重ねる必要があります。
よく幼少期からピアノを習ったものの、親の手が離れた小学校高学年あたりから辞めてしまう子どもが多いのはこのためではないでしょうか。
「音楽の楽しさ、音楽に対する感動、それを身体で表現すること」を学ぶ前に、
「楽譜をなぞること、演奏法を覚えること」から始めるのは、子どもにとっては苦痛でしかなく、手は動いても身体は音楽を感じていないことでしょう。
しかし、子どもはもともと音楽が大好きです。
遊びに集中していても、気になるフレーズの音楽が聞こえてくればすぐにそちらに耳と身体を向けます。
アンパンマン体操の音楽が流れてくれば、自然と身体を動かします。
リトミックは、「音楽」と「身体を動かす」という2つの子どもの「好き」をリンクさせ、自発的に子どもが音楽能力を習得できるよう体系立てられた、画期的な教育法です。
さらに後述のとおり、リトミックは音楽分野での教育のみならず、その体験を通じて自己表現力、社会性、集中力、身体的能力など、人間としての幅広い能力の取得や成長につながるものです。
日本では近年になって子どもをもつ親や、幼児教育・保育機関に注目されるようになりましたが、ダルクローズが生きていたのは1865年~1950年。
日本にリトミックが紹介されたのが1910~1920年代ころ。
日本でも約100年の歴史をもつ、偉大な先人たちにより構築された体系ある教育法であると言えるでしょう。
リトミックの例(3歳児)
リトミックの効果については、具体例を示しながらの方がわかりやすいと思いますのでまず3歳児に対するリトミックの一例をご紹介します。
例)音楽に合わせて子どもが動物を表現するリトミックです。
- 指導者は左手を2分音符を使った音楽をピアノで演奏。
- その拍子にあわせて、「この曲はぞうさんで歩きましょう」と提示。
- 子どもは各々曲に合わせて「ぞうさん」を表現。
- 指導者は両手とも4分音符を使った音楽を演奏。
- その拍子に合わせて、「この曲はうさぎさんで飛んでみましょう」と提示。
- 子どもは各々曲に合わせて「うさぎさん」を表現。
- 指導者は右手すべて8分音符を使って音楽を演奏。
- その拍子に合わせて「この曲はりすさんが走りますよ」と提示。
- 子どもは各々音楽に合わせて「りすさん」を表現。
リトミックのメリット・効果
リトミックの効果や取得できる能力は多岐にわたりますが、わかりやすく抽出するとこんな感じです。
- リズム感・音価・拍の理解
- 表現力
- 集中力・注意力
- 社会性
- 運動能力
リズム感・音価・拍の理解
たとえば動揺「ぞうさん」。
「ぞーうさん♪ぞーうさん♪」とお子さんと一緒に歌われたご経験のある方がほとんどではないでしょうか。
さて、あなたは「ぞうさん」を歌うとき
「ぞうさんは3拍子だから3拍を意識して歌おう」
と考えながら歌っていますか?
…そんなこと考えながら子育てしている人は珍しいかと思います(私もリトミックに出会うまでは、もちろん全く考えずに手を適当にぶーらんぶーらんさせて歌ってました)。
日本の童謡にも外国曲にも、リズムの習得に役立つ曲があふれています。
でも、保育者は日常の中でそれを意識せずに当たり前のように歌うので、一緒に歌う子どもも特に拍子を意識せずに歌います。
もちろん、親子が一緒に歌うというだけで十分なスキンシップの効果があります。
でもリトミックでは、音楽能力という面からもう1歩踏み込んで子どもに体感させます。
つまり、
「ぞうさん」は1・2・3の拍節で成り立っているということを、身体を使って感じさせるのです。
具体的には
腕を長い鼻に見立てて、「ぞーうさん」「ぞーうさん」という拍節ごとに左右に揺らしたりするなど。
そうすれば、子どもは「ぞうさんは3拍子よ」と理論を教えられても「?」であった理解が
身体を使って3拍子を感じることで、3拍子とは何かを体感します。音楽を4拍子の歌に変えて同じように体感させ、4拍子との違いを際立たせればなお効果があります。
音価についても同じです。
音価というのは、音の楽譜上の長さのことです。
「♪」8分音符が2つ=「♩」4分音符1つの長さ
というようなものです。
これも、子どもに「4分音符は8分音符が2つ分の長さなのよ」と教えても
きっと「?」という顔をするでしょう。そして、それを理解し習得するまでに時間がかかり子どもも苦痛を感じるかもしれません。
そこで先ほどの事例です。
2分音符を基調にした曲を聴きながら子どもに「ぞうさん」歩き方をさせる。
そのあと、4分音符を基調にした曲に変えて「この音楽になったらうさぎさんになりますよ」と跳ねさせる。
子どもは、「この曲はぞうさんなんだ」「この曲はうさぎさんなんだ」と認識し、身体を使ってそれぞれの曲を表現します。
そうすることで、「ぞうさんはゆっくり」「うさぎさんは普通の速さ」「りすさんは速く」という認識から、うさぎさんで2つ跳ぶ間にぞうさんは1歩歩いている、ということを体感しています。
さらに「うさぎさん」を歩いているときに指導者が「♩」のマークを子どもに見せ続ければなおgood。
「うさぎさんは4分音符マークの歌なんだ」ということを無意識的に身体にしみこませます。
ぞうさんの2分音符やりすさんの8分音符も同じことです。
そうすることで、理論として頭ではなかなか入りづらい「拍」や「音価」を身体で覚え、成長したときリズム感ある子供になることが期待できるとされています。
表現力
子どもが自分の意見を表現するということは、言葉の習得や記憶、想像力などいろいろな力を必要とします。
しかし、上の事例で「ぞうさんは長い鼻で、鼻をぶーらんぶーらんさせて、どしどしと歩くのよ」と言ってしまうと子供の想像力や表現しようとする力を奪ってしまいます。
「さあぞうさんのお歌を弾きますよ。ぞうさんが歩いています。1,2,1,2みんなもぞうさんになって歩いてみましょう」
そういってこどもそれぞれ「自分のぞうさん」を表現させます。
ある子供は鼻を揺らしているかもしれませんし、ある子どもは耳を揺らしているかもしれません。またある子どもは大きな音を立てて歩くかもしれません。
「みんなの前で自分のぞうさんを表現する」というのは自己表現を培う大事な一歩だと思います。
そしてすぐ後に「うさぎさん」「りすさん」を表現させることで、動物の違いをどのように表したらよいのか、子どもたちの小さな頭の中で目いっぱいに考えることでしょう。
それを大好きな音楽に合わせて行うことで、子どもが「楽しい」と感じながら自由な表現力を磨いてくれる効果を期待できます。
集中力・注意力
リトミックでは、指導者の合図を子どもが記憶・判断し、それに従って表現します。
例えばさきほどの例でいうと、
- まず「ぞうさん」「うさぎさん」「りすさん」を曲に合わせて表現させます。
- これを何度か繰り返すうち、子どもたちは「これはぞうさんの曲」「これはうさぎさんの曲」「これはりすさんの曲」などと音楽と動物をリンクさせて記憶します。
- 指導者は「みんなでお散歩しましょう。途中でぞうさんたちにも会いますから、みんなも音楽に合わせてぞうさん・うさぎさん・りすさんになってお散歩しましょうね」などと言い、音楽を奏でます。
このとき、子どもは全神経を集中させて音楽を聴きながら歩きます。
低い音で2分音符の演奏が聞こえた瞬間「あっ!ぞうさんだ!!」と喜んでぞうさんになります。
子どもの集中力は長く続きませんが、好きなものに対しては大人が驚くほどの集中力を発揮します。
音やリズムの違いによる指導者の合図を、いまかいまかと緊張状態になりながら耳をすませています。
指導者は、音の高い低い・強い弱いなどの緩急をつけながら、適切なタイミングで合図をします。
散歩だけでなく、「人参がありましたよ!うさぎさん食べましょう。カリカリカリ・・」などと言いながら高い音を使って合図などすれば、子どもは喜んで人参を食べる動作に移ります。
音を注意深く聞きながら、即座にその音に合わせた動きを表現する。
そうすることで、子どもの集中力・注意力を養い、自分自身をコントロールしていく力も培われていくと考えられます。
社会性
リトミックは子どもと大人の1対1でも可能ですが、年齢が大きくなれば集団で行うことでより効果が得られると思われます。
また、集団でリトミックを行うことで社会性や対人コミュニケーション力を養うきっかけにもなります。
たとえばぞうさん・うさぎさん・りすさんの例で、音楽に合わせてお散歩するとき
「お友達と2人組になってお散歩しましょう。動物が変わったら、お友達も変えますよ。」
と条件を出して、2人組にさせます。
そのとき、人数が奇数だと2人組になれないこともあります。そこで指導者が
「1人になったお友達がいたら、入れてあげて3人組になりましょう」
と声をかければ、すかさず
「〇〇ちゃん、こっちおいで!」
という声が飛んできます。
また、2人でお散歩するということは、音楽に合わせるだけでなくお友達の歩調にも合わせて表現しなければなりません。
集団でリトミックを成立させるということは、子ど自身が集団全体が円滑に動けるにはどうすればいいか考えたり、一緒に行うお友達の立場にたったりすることが必要になります。
筆者に指導くださっている先生の教室では、最初は恥ずかしがって中々コミュニケーションがとれない子どもたちも
回数を経れば、指導者が「1人になったら入れてあげて」と言わずとも
「〇〇ちゃん1人なの?じゃあこっち入りなよ」と自発的に声掛けがなされるそうです。
運動能力
リトミックは身体を使って音楽を表現するので、運動能力の向上にも役立ちます。
たとえばさきほどの「うさぎさん」では、4分音符に合わせてピョンピョン、と飛び跳ねさせますが
♩♩♩♩ だけでなく
♩休♩♩ や
♩♩休♩ など
指導者が音楽を変え、「♩」だけジャンプし「休」ではジャンプしない、ということを表現させてみます。
- 子どもは「休」のときは飛ばないから足をストップさせなければならない
- 次の「♩」に備えて飛ぶ準備をしなければならない
ということを頭で考え、それを身体で表現するので、頭から足の神経にそれを伝達する力や、身体をストップ・ジャンプする筋力も養われます。
また、近年では外で遊ぶ機会が昔に比べうすれ
「縄跳び」や「スキップ」「けんけん」など、外で友達と交わることで容易に取得できた能力も、親が教えてあげなければならないようなことも出てきました。
これらは動作のリズム感が要るものです。
リトミックでは、音楽に合わせてこれらのリズム感を養い、運動動作につながるような仕掛けもほどこされています。
リトミックは何歳から始めるのがいい?
これについては「何歳からがおススメです!」と断言することは難しいですが
筆者は「早ければ早いほどいい」
と思っています。
多くの指導書は1歳児からとなっているようですが、筆者が受けている講座において現在保護者から最も需要が多いのは0歳児のお子さんだそうです。
0歳児からリトミックを教えるというのは指導の立場では非常に難しい技術を伴いますが、子どもの脳に与える効果は大きいと思います。
筆者の子ども2人は1歳児からリトミックをさせて頂いています。2歳児くらいまでは「わかってるのかな~?まあ楽しんでるからいいか」という感じでしたが
3歳児あたりから、リズムの取り方への理解が深まってきました。
小さいうちから拍やリズムを意識した環境に置かれることによって
理論では難しい「〇拍子」などのリズムも、無意識に表現できるようになるのではないかな、と勝手に考えております。
私自身も小さいころからピアノを習っていましたが、
もっと早くリトミックやっておきたかったなあ
と口惜しく思っています。
※参考文献
- 「リトミックってなあに」岩崎光弘氏著(2012)(株)ドレミ楽譜出版社
- 「「音楽表現」におけるリトミックの実践~身体を楽器にした音楽表現を中心に~」岡部裕美(2009)千葉大学教育学部研究紀要第57巻379~384頁